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生き抜く力をすべての子どもたちに~経済学教育の新しい形~

出版局 エデュケーション室長 茅根恭子

今、茅根さんのお仕事は面白いですか?

このインタビューを、たとえば1年前に受けていたとしたら、経済学のテキストや専門書の企画をし、編集する仕事の面白さ、1冊1冊の原稿に入り込み、違う世界を作っていくことの面白さをお話ししたと思います。今の私はというと、長年続けてきたそれと非常に近いところにある仕事をしながらも、種類の違う面白さを感じているところです。新たに立ち上がったエデュケーション室では、“経済学教育の新しいかたち”を探しています。

具体的には、主に大学の経済学の授業にいかに新しい仕組みを提供していくか、たとえば、電子教科書の利用促進、学習の定着度をはかるオンラインテストや動画利用の体制構築、補助教材としての講義資料開発に取り組んでいます。当然、今まであった紙の本を単純に電子化したり、米国で使われている仕組みをそのまま持ってくるというのでは済みません。大学の先生方から教育現場の本音をうかがったり、そもそも大学教育、高等教育ってなに? という問い直しをしたり。言ってみれば、ゼロからイチを作るための仕事をしている面白さ、遠くに見えている山にどんなふうにアプローチしていこうかという面白さですね。

ワーキングマザーの茅根さんが、こうして新規事業を含めご活躍されていることに憧れます。

子どもが3人いるので、たしかに使える時間は限られています。会社に来てデスクで仕事ができる時間はそう長くないし、家に資料を持ち帰ったところで見る時間が潤沢にあるわけもなく、土日にこなせる仕事量も多くはありません。でも、やるべきことは常時ものすごくたくさんあって、仕事でなかなか結果が出ないときにも悩んで立ち止まっている暇はない。逆に、子育てに悩もうにも、そんな暇はやっぱりない。どうしたって、仕事も家庭も「私にはこれがすべて!」というものにはなり得ないのですが、それで、かえってどちらも大丈夫なんです。自分の中に世界がいくつもあるような感じですね。

実は、最初の子どもが生まれるまでは事実婚の状態でした。昔気質の上司に「(夫が)かわいそうじゃないか!」なんて言われながらも、そんないわゆる結婚生活、夫との共同生活は仕事のスタイルに影響するものではなくて、大きな変化が起こったのは妊娠してから。働き方が、本当に一変してしまいました。

結婚や出産をするかわからない私にとっても、気になるテーマです。

はじめの妊娠では、会社に報告する直前のある日の休憩時間、病院に行ったら切迫流産だと怒られてそのまま入院。調子が悪いわけじゃなかったのにと自分でも驚きながら、2週間休むことになってしまって……。そのとき、妊娠したら「私は今、妊娠モードです」って言っておかないと、かえって迷惑をかけちゃうんだなって意識が生まれました。

妊娠中や子どもが小さい頃は、どうしても消極的になりがちでした。いつ電話がかかってくるかわからないから、人に会いに行き辛い。とにかく、自分が休んだときにどうすればうまく仕事がまわるかということばかり考えていました。毎日をやり過ごすのがやっと。そんな時期に、経済学の教科書のようなスパンの長いものを担当できたのは救いでした。

今はいかがですか?

子どもたちが大きくなってからは、手がかからない部分も増えてきたけれど、親であるだけで100%受け入れてもらえるという時期でもなくなりました。今は、親と子が、それぞれ個人として、いかにしてお互いを認め合っていくかの真剣勝負をしています。

ちゃんとした職を得られるかわからない、ばら色とはかぎらない未来に向けて、生き抜く力をつけてほしいという願いはあります。すると、家事にしても何にしても、このぐらいはできたほうがいい、ということについては、見本というか、実際に親がそれをしている姿を見せていきたい。ニュースを見て子どもが疑問を持ったら、それにしっかりと答えたいし、変な答えで子どもの価値観を染めてはいけないから、自分自身が偏りのない視点で世の中をとらえて話をしていかなければならない。でもそうするには、自分が学び、成長し続けないと追いつきません。

親として試されながら、いつももっともっといろんなことを学びたいと思っています。そして、今はインターネット講義や、手に入れやすい本を組み合わせる形での学習が、徐々に可能になってきた時代です。実際に、学ぼうと思えば、学べることって増えてきているんです。日本をはじめとする先進国では、誰でも、いつでも、これは何歳でもという意味であり、朝でも夜でも何時でもという意味でもあるのですが、より自由に学べる時代が来つつありますよね。

それって、これからエデュケーション室で実現しようと取り組まれていることにもつながっていますね。茅根さんの目指す未来って、やっぱりそのあたりにあるのでしょうか?

私、経済学に初めて触れたとき、ものすごく興奮したんです。大学に入るまでは公民の一部で扱われているだけで、経済学がどんなものかはわからなかった。それが、大学1年生の頃の講義で「パレート最適」の説明、「誰かの満足度を下げずに、別の誰かの満足度を上げることができない」という説明を受けて、視界がパッとひらけたような気がしたんです。これを「効率的」って言っちゃうんだ! って、イメージが刷新されました。経済学の限界を感じると同時に、経済学が身近なものになったような、そして、哲学や政治学分野への広がりが実感されるような体験でした。それ以降は、特に開発経済学に関心を持つようになっていったのですが、私があのときに得たような“学びによる感動”を、経済学からでなくてもなんでもいい、誰もがいつでも味わえる未来、そんな未来が、私にとっての理想の未来です。

ビジネスの立場から関わろうとすると楽ではないし、この分野では毎日めまぐるしく状況が変わっているので、私自身の近い未来にはどんなことが起こるかわからないんですけどね。実は、書籍編集の仕事もそのまま続けているので、仕事量倍増中ですし(笑)。

※所属・役職は取材時時点のものです。

プロフィール

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出版局 エデュケーション室長

茅根恭子

1968年東京都生まれ。東京学芸大学附属高校、早稲田大学商学部を卒業し、1991年東洋経済新報社に入社。1937年創刊で戦時中も途切れることなく毎月発行された英文誌Oriental Economistの後継版であるTokyo Business Today編集部で日本の情報を世界に向けて発信。その後、英文誌の休刊にあわせて出版局へ異動し、書籍の編集に携わる。スティグリッツ経済学シリーズ、マンキュー経済学シリーズなどの大型翻訳テキストの編集のほか、ロバート・ライシュ著『暴走する資本主義』やウィリアム・イースタリー著『エコノミスト南の貧困と闘う』などを多くの本を担当。その間、結婚および出産を経験し、3人の娘の母となる。現在は書籍の編集に加えて、イーラーニングやアクティブラーニングに対応した教材を考える仕事も兼務。

編集後記

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出版局 編集第二部

山本舞衣

出版局に配属されたての頃、当時、茅根さんが編集を担当されていたテキストのゲラを見て驚いたことがあります。ものすごく細かい鉛筆書きで紙が黒くなっていて、でも、ほれぼれしちゃうぐらい綺麗なんです。そんなスタイルにもあらわれる茅根さんの編集哲学とか、新人の頃の思い出話とか、それから、ご家庭のこととか。せっかくのチャンスということで、遠慮なくあれこれ質問してしまいました。ここに書けなかったことも含めて、色々な話に花が咲く楽しいインタビューでした! 同じ部署にいるとはいえ、こんな機会でもなければ、なかなか聞けないものですね。​